「フェリクス」
 しわがれた声が名前を呼んだ。フェリクスは目を開け、眩さに何度か瞬きをする。
「……親爺」
「おれたちは生きているのか」
 呆然と問いかける父親に、フェリクスは思わず笑みを浮かべた。
「ああ」
「魔女は……おれたちを呼ばなかったんだな」
 どこか残念そうに呟いて、父親は凪いだ海を見つめる。周囲を見回すと、そこは見覚えのある、村のすぐ近くの渚だった。見慣れた、青く穏やかな海と空だ。少し離れたところには、半分壊れてはいるけれど、直せば充分使えそうなフェリクスたちの小舟も流れ着いている。
「……終わったんだよ、親爺」
 立ち上がって身体の調子を確かめるフェリクスに、父親はもの問いたげな視線を向けた。
「おれたちは王族の子孫じゃなかったみたいだ」
「魔女に会ったのか、フェリクス」
 声ににじむ紛れもない羨望を感じ取って、フェリクスは苦笑する。
「会ったよ。そして、たぶんぜんぶ終わった」
「そうか」
 頷く父から海へ視線を向け、並んだまま打ち寄せるさざなみを眺めた。凪いだ海は青く、まるで宝石のようだ。嵐の気配はもうどこにもない。フェリクスは小舟を引き上げるために、浅瀬に足を踏み入れる。あたたかな水が、フェリクスのかかとを包み込む。
 足にふれるきらめく波のささやきに紛れて、少女の歌声とやわらかな竪琴の音色が、微かに聞こえた気がした。