その後、消去法で選ばれた私とパメラ先輩で厳正なるじゃんけん勝負をした結果、負けた私がオルティス先輩を慰めに行くことになった。

 まあ、クライスやエミリオくんは慰める雰囲気じゃなさすぎるし、リディア先輩もどっちかというと叱りつける側だったもんね。二人で行くとたぶんプレッシャーになるし。

 というわけで、他の四人が自室に入った後に、私はオルティス先輩の部屋をノックした。

「せんぱーい! 大丈夫ですか? なんか甘い物でも食べます?」

 出てこなかったらお菓子で釣るといいですよ、とクライスからアドバイスがあったけど、ほんとにそんなんで出てくるんだろうか。
 半信半疑になりながら、可能な限り優しく声をかけてみる。

 ……やっぱ無理では?
 そう思いながら十秒くらい待って、別の方法を考えようと踵を返したところで、背後から扉が開く音がした。

「……お前だけなのか」
「はい。みんな宿題するとかナントカで」

 嘘ではないが、本当かどうかもわからない。みんな扉の前で耳を澄ましている可能性は大いにある。

「とりあえずどうぞ」

 先輩を食卓に案内して、(クライスが)用意しておいたクッキーとハーブティーを出す。
 そして自分もその向かいに座った。

 オルティス先輩が無言で食べ始めて、微妙な沈黙が落ちる。
 う~ん、こういうときどう話を切り出したらいいかわからないな。やっぱり人選ミスでは?

 そんなことを思いながら、クライスが作ったクッキーを食べる。
 相変わらずおいしい……料理の勉強なんてしてる気配ないのにいったいどうなっているんだ。私もジビエ料理なら得意なんだけどお菓子はなあ……。

「……今まで、考えたこともなかったんだ」

 いろいろ疑問に思いながら黙々と食べていたら、オルティス先輩の方から話し出してくれた。

「まあ、そうですよね」
「……今回のことも、注意しろって言ってきた従者はいたけど、うるさいから国に帰らせた」
「ああ……」
「クライスウェルトのことも、面倒だから離れればいいと思って……」

 どんよりとティーカップの中を覗き込みながら、オルティス先輩は深く深くため息をつく。

「僕が馬鹿だったんだな」
「うーん……どっちかというと、素直すぎる気もしますね」

 言ってしまった後で、これフォローになっていないのではと自分を疑った。
 やっぱり人選ミスでは……?

「えっと、今だってクライスから聞いた話をそのまんま信じちゃってますし」
「……え」

 オルティス先輩は心底びっくりした様子で目を見開いた。

「お前、あいつのことを信じていないのか!?」
「いや、私は信じてますけど。でも私とオルティス先輩は違います。私はクライス以外の人を、そんなに簡単に信じたりしないです」
「じゃあ信じるかどうか、どうやって決めるんだ……?」
「そうですね……」

 私がそんなこと答えて良いのかなあ、と思うものの、でもなんにも言わないのも違う気がして、聖女だった頃を思い出してみる。

「相手をちゃんと見ることと、自分でも調べたり考えたりすること、ですかね」
「相手をちゃんと……見てるつもりなんだがな……」
「その結果、みんな親切だと?」

 覚えがあるせいで思わずにやっとしてしまった。先輩はがっくりと肩を落としながらうなずく。

「そうなんですよね。聖女とか勇者とか王子とか、肩書きがあるとみんな親切。なので、私は相手が自分以外の――特に、その人より身分が下の人にどう接しているのかを見るようにしてました」

 具体的にはクライスに対してぞんざいな対応をする人のことは、信じないことにしていた。
 普通にムカつくしね!

「目下の人間に、か。今度から、そうしてみる」

 オルティス先輩はめちゃくちゃ素直にうなずいた。素直すぎて落ち着かないくらいなんだけどこれ! ほ、ほんとに大丈夫かな。

「クライスウェルトは……僕以外のやつには優しいよな。特にお前には」
「いやぁ、私にも怒るときはちゃんと怒ってくれるし、先輩にも優しいと思いますよ……」

 これは本当だ。クライス、先輩にはなんか……面倒見が良い感じがするんだよね。
 私が一人で納得してうなずいていると、オルティス先輩はふと顔を上げて、首を傾げる。

「お前とクライスウェルトって、恋人同士なのか?」
「……は?」

 待って、今なんつった?
 なんかとんでもない勘違いが飛んできた気がするんですけど?

「先輩、いきなり何言って……いや違います、私とクライスは」

 困惑しながら反論しようとした瞬間、がちゃりと音を立ててクライスの部屋の扉が開いた。

「申し訳ありません。お話し中でしたか」
「ああ、もうだいたい終わったから大丈夫だけど」

 うん、いきなり妙ちきりんな話題が出てきたことからして、先輩ももう立ち直ったんだろう。
 にこやかに歩み寄るクライスに、なぜかオルティス先輩は椅子の背もたれに抱きつくようにして身を引いている。
 ……なんで怯えているんだ?

「お、お前……話を聞いて……いやなんでもない」

 クライスは怯えるオルティス先輩に小さく首を傾げたあとで私に向き直った。

「入浴の件ですが、今から全員で参りませんか? 私とオルティス殿下が交代で護衛すれば問題は起こらないでしょう」