というわけで、私たちは全員揃って風呂場にやって来た。
 まずクライスが見張りに立ち、オルティス先輩とエミリオくんが出たら交代で入る。
 女子組はたぶん男子組より長くかかるので、その二交代の間に入る。

 入浴の順番をそう決めて、私たちは女湯と男湯にわかれた。

 とはいえ、間の仕切りと温泉を囲む塀はつつけば倒れそうなくらい簡素なものだから、声も物音もだだ漏れだ。

 ――なのだが。

「こういうところにみんなでいると、恋バナしたくなるわよねぇ」

 パメラ先輩がお湯につかりながらにこにこと言い放つ。

「ねえねえ、二人とも、好きな子とかいないの? たとえばぁ」
「皆様、すべて聞こえておりますので、話題は選んでいただけると」

 目を輝かせるパメラ先輩の言葉を、塀の外のクライスが遮る。

「話題を……選ぶ?」

 遮られたパメラ先輩は、しかしまったくこりていない顔でにやぁと笑う。

「しょうがないわねぇ。じゃあ~……えいっ」
「うわ、何するんですか先輩!?」

 そのままいきなりお湯を両手ですくってかけてくるものだから、私は思わず水音を立てて立ち上がってしまった。

「青春よ! 青春! ほら、二人もやってやって!」
「待って待ってタオルが、タオルが落ちる! ていうか、えっこれ青春なんですか!?」
「アリアーナさん、だまされないで! パメラ先輩もこっちにまでかけてくるのやめてください!」
「背中洗いっこでもいいわよぉ」

 パメラ先輩の勢いがすごい。酔っ払いみたいだ。
 しかし、青春、と聞くとそんな気もしてくるし、ちょっとやってみたくなるな……。

「パメラ先輩、僕からもお願いしますからやめてください! このままだと護衛がのぼせ上がって使い物にならなくなります!」

 男湯からエミリオくんの悲痛な声。オルティス先輩の声はしない。
 そして外からは、クライスの深い深いため息が聞こえてきた。

 ……青春には興味あるけど、これはやめておいた方がよさそうな雰囲気だね。というか、男性陣待たせちゃうしね。

 わいわいしながらお風呂から出ると、オルティス先輩とエミリオくんが外のベンチに腰掛けて待っていた。

「クライスウェルト先輩、すごい疲れた顔してましたよ」

 持参していたらしき水筒から水を飲みながら、エミリオくんが言う。準備いいなあ。
 横で試合終了したスポーツ選手みたいな雰囲気でうなだれるオルティス先輩は、なんか顔が赤い。

「オルティスくん、大丈夫なの?」
「……問題ない。護衛はこなせる」

 元気のない返事ではリディア先輩の心配は覆せなかったらしく、リディア先輩は扇でオルティス先輩をあおぎ始める。

「うーん、青春って感じだったわねぇ。リディアちゃんとは去年もよく一緒に来てたけど、やっぱり人数が多いと楽しいわぁ」

 パメラ先輩はやっぱりニコニコしている。なんかいろいろあった一日だったと思うんだけど、先輩元気だなぁ……

 そんなことを考えながらぼんやりしていると、ほとんど間を置かずに男子更衣室からクライスが出てきた。風呂上がりだというのに髪も乾いているし服もいつも通りだ。
 いろいろ一瞬すぎない? ……ほんとに入ったんだよね? いやクライスがそんなとこサボるわけないけど。

「お待たせいたしました。戻りましょうか」
「先輩、髪は乾かしたんですか?」

 私と同じところに疑問を持ったらしく、エミリオくんが興味深そうに尋ねる。

「ええ。魔術で水を破壊しました」
「……髪、傷みそうじゃない?」
「時間をかければそれほどでも」

 私の疑問にも答えてくれたのはいいけど、時間、絶対かけてないよね? めっちゃすぐ出てきたもんね……?

「ご希望の方がいれば後ほど乾かしますが」
「んー、じゃあお願いしようかな」
「わたしはいいわぁ。乾かす用の魔道具が部屋にあるのよ~」
「同じく私も大丈夫」
「僕もすぐ乾くのでいいです」
「お前の世話にはならん」

 一人ツンデレがいるな。
 パメラ先輩と目が合って思わず二人で笑ってしまいながら、寮に戻り始める。

「明日からどうしようか」

 道すがら、ぽつりとリディア先輩が言う。

「まずは風紀委員の方で事務部の緊急監査を行います。すべての予算を戻してもらうことは難しいかもしれませんが……差し押さえられた魔道具類くらいは戻ってくるかと」
「あらあら、素敵ねぇ」
「それだけでもすごくありがたいわ。魔道具が戻ってくれば、本格的に付与魔術の勉強も始められるし!」

 リディア先輩は力強く拳を握りしめた。