聖女の力を失ったのに元護衛騎士候補の幼馴染みが過保護を止めてくれない

第25話 招かれざる客とカッコイイリディア先輩と私

 翌日には風紀委員の人たちがクライスの指示のもと、差し押さえられていた研究室の備品や何かを運び込んでくれて、修正された予算書もリディア先輩に渡された。
 リディア先輩がめちゃくちゃ嬉しそうで、みんなもこれでやっとちゃんとした研究活動ができるんだなとほっとする。

 そしてそんな喜びも束の間、翌々日には神殿から招かれざる客が到着した。
 早いよ。

「久方ぶりだな、聖女よ」

 わざわざ寮まで押しかけてきてクッソ偉そうに言い放ったのは、コンラート・アル・インテンツィア。インテンツィア家は、クライスの実家であるシルヴェスティア家と同じく、代々聖女の護衛を輩出している名門だ。

 コンラートもクライスと同じく、昔は私の護衛騎士候補だったんだけど、こいつは最初っから私のこともクライスのことも馬鹿にしくさっていた。

「お久しぶりですね、コンラート」

 いつもの調子でしゃべると「これだから平民出身の聖女は」とか鬼の首でも取ったかのように大騒ぎしてくるので、猫をかぶってにこやかに答える。
 でも意地でも「コンラート様」なんて呼んでやらん!

「半端者の聖女が力を取り戻したと聞いて駆けつけてやったら、戻ってきた力は半分だけか。より半端になっているというわけだ。下賤の血にふさわしい末路ではないか」

 これだよ、これこれ。
 遠巻きに見ている研究室の面々が、オルティス先輩までドン引きして遠巻きに見ている。

「あの人なんか末路って言葉の使い方間違ってません?」
「えっとぉ、言い方は悪いんだけどぉ」
「……もしかして以前の僕ってはたから見たらあんな感じだったんじゃ」
「ごめん、オルティスくん、それは否定できない」

 うん、我が研究室、権力に媚びる気のある面子がゼロだわ。なんか安心した。オルティス先輩は地にめり込みそうな雰囲気になってるけど。

「それでどういったご用件でいらしたのでしょうか?」

 下賤の者など無視だという態度を丸出しにしているコンラートに、私はにこやかに問いかける。
 無視している「下賤の者」の中に王子で勇者な約一名が混ざってるんだけど、めんどくさいからわざわざ教えなくていいや。

「無論、貴様を護衛するためだ。神殿からの命が下ったからな」
「間に合ってます」
「……なんだと?」

 心の底から信じられないという顔をしている。そういえばこいつ、すごい自信家でもあったな……。

「クライスもおりますし、研究室の皆様も助けてくださいますので。コンラートも神殿の命令では帰るわけにもいかないでしょうから、魔道士科の方にでもごゆるりと滞在してくださいませ」

 貴族向けの寮が充実してるからコンラートでも不満なく過ごせると思うんだよね。訓練相手も不足しないだろうし。

「素人どもに護衛の代わりが務まるものか」

 コンラートは私の後ろでにこやかに控えているクライスのことをあくまで無視して、それ以外の四人に視線を向ける。一緒に専門的な教育を受けたクライスのことは、さすがに素人扱いできないもんね……。

「お前、この僕を誰だと」
「待って」

 気色ばんで前に出ようとしたオルティス先輩を、リディア先輩が押しとどめる。

「ご心配でしたら、まずは私と手合わせ願えませんか?」
「下賤の素人の女子どもがこの私と手合わせだと? 身の程をわきまえろ」
「まあそう仰らず胸を貸してください」

 なんか……リディア先輩がこわいんだけど!? クライスみたいな笑い方してるんですけど?
 思わず振り向いてクライスを見上げると、「大丈夫ですよ」という顔で微笑まれた。くっ、また頼ってしまった……!

 私が密かに自己嫌悪に陥っている間に、コンラートとリディア先輩が試合をする話はなぜかトントン拍子に決定事項になっていた。

 えっそれ大丈夫なの!? 本当に!?
 おろおろしていたけど、よく見るとおろおろしているのが私とオルティス先輩だけだったので、だんだん落ち着いてくる。

 いや失礼なんだけど、オルティス先輩がおろおろしていると逆に大丈夫なのかなって思えてくるんだよね……。いろいろ知ってそうなパメラ先輩と事情通っぽいエミリオくんは落ち着いてるし。

 というわけで、私たちは外の広場に場所を移して、リディア先輩とコンラートの試合を見守ることにした。

 リディア先輩が自室から取ってきたのは、質実剛健を絵に描いたような飾り気のない長剣だった。

「入学してからは素振りしかしていないので実力は不足していると思いますが」

 とか言いつつ、軽く剣を振ってピタッと止める姿がめちゃくちゃ様になっている。か、かっこいい! 強者のオーラが出ている……!

「ふ、小賢しく吼えるだけのことはあるようだな」

 コンラートもちょっぴり気圧されているみたいだけど、ここで相手の実力を認めて引き下がるようなタイプではない。

「魔術はなしで行きましょうか」
「それでこの私に勝てると思っているのか?」
「私は付与魔術師科ですが、今回は剣の腕を見ていただきたいので」

 リディア先輩はイイ笑顔で圧を放つと、すっと身構えた。
 ……やっぱかっこいいな!