No.203, No.202, No.201, No.200, No.199, No.198, No.1977件]

#語彙トレ2026 01/23 - 寂寥

「その絵、英雄だろ?」
 路上で絵を売っているからには、話しかけられたら答えて仕事につなげるのが礼儀だ。
「ああ、これかい?」
 地面に並べた幾枚もの絵の中から一枚を探し出して見せてやる。寂寥とした夜の荒野に跪き、石碑に祈りを捧げる青年の絵だ。人好きのする笑顔をふっと消した男は、その絵を静かに眺めた。
「俺も会ったよ、この人に」
「あんたも命を救われた口か」
 頷いた男は、同じ構図で石碑を女神に描き換えてくれと言う。
「英雄に祝福を与える慈愛の女神にさ」
「引き受けよう」
 それが帰って来なかった英雄への鎮魂になるのならと、絵描きは筆を手に取った。

創作

#語彙トレ2026 01/22 - 諧謔

「では、お元気で」
 別れの言葉はずいぶんとあっさりしたものだった。英雄として崇拝されるのにふさわしい実力を持った男は、しかしそんなことに大した意味はないとでも言うように微笑している。
「あんたなら歪みの大元を断つくらいのことはやってのけそうなんだがなあ」
「そうできたら良いのですが、残念ながら私にできることはせいぜい時間稼ぎくらいのものなのですよ」
 諧謔に紛れて、もう一度同じ言葉が繰り返される。念を押されているのだろう。
「私に真実を探している時間はないので」
「そっか。じゃあ、俺も探しとくよ」
 同じように冗談めかして、ゲイリーは誓った。

創作

#語彙トレ2026 01/21 - 凝結

 右腕の凝結した血液を容赦なく拭き取れば、その下から傷一つない肌が出てくる。
「これくらい治れば実用的か。しかし、実験例に事欠かないのはいいけど、君たちは怪我しすぎだよ」
 治癒の弾丸の実験結果と共にもたらされた評価に、ユリウスは恐縮する。
「すみません」
「アシュトンに聞いたらすごい適当な答えが返ってきたから君に聞いておきたいんだけど、反動による疲労感はどの程度?」
「二時間全力で訓練した程度です」
「なるほど。体力の前借りをもうちょっと緩やかにしたいところだな」
 カルテに書き込みながら、ダミアンはもう既に改良の方法を考え始めているようだった。

おまけ
アシュトン「えー、疲労感の程度? だりーなー煙草吸いてえ、くらい」
ダミアン「さっぱりわからん。だいたい君が煙草を吸いたいのはいつものことだろう」
アシュトン(肩をすくめる)
ダミアン「ところで毎回生傷が絶えないのはなんとかならないのか?」
アシュトン「活動に支障が出ねえ程度には抑えてるだろ。治癒の実験もできるし一石二鳥じゃねえか」
ダミアン「君たちはドMなのか?」

創作

#語彙トレ2026 01/20 - 焦燥

 眠るのは苦手だ。
 夢にはよく、彼らが現れる。未来を共にするのだと信じていた頃の、厳しくも優しい記憶。ほんの少し時間を稼げばきっと解決策が見つかると、次こそはすべてを終わらせると、約束し合った。
 時と共に少しずつ崩れていくそれが、どんな凄惨な戦いよりも苦い悪夢だ。
 目覚めれば、誰もいない。あれからどれだけ時が経ったのか、未だ成し遂げられない、終わりの見えない使命。彼らの信じた未来を、疑いたくない。絶望したくないのに。
 宵闇の中で、ひりつくような焦燥が身を焦がす。

創作

#語彙トレ2026 01/19 - 脆弱

「理論的には成功率は既に百パーセントだ。そうでなければ、条件を満たした時点で、記憶を保持したまま、元の肉体と似た条件を備えた肉体に、むりやり魂を転生させる魔術を人間に付与することなど許されない。しかしまだ改良の余地はある。作戦決行の日までに、外部からの干渉に対する脆弱性を減らし、安定性を高めること。それが、僕の使命だ」
 そう皆の前で決意を語ったダミアンも、後ろで熱心に頷いていたフレアも、最後まで全力を尽くしたことは疑いようもない。どんなに全力を尽くしたところで、どうにもならないことは、どうにもならない。ただ、それだけのことだ。

創作

#語彙トレ2026 01/18 - 伏流

 帰ってきたらあんたが恥ずかしくなるくらいカッコイイ英雄の歌を捧げてやるよ、と言ったゲイリーに、男は微かに笑って肩をすくめた。その笑みの底に伏流していた感情は、今思えば「諦め」だったのかもしれない。
「ついでに歴代の英雄が歪みを根本的に解決する方法を探し続けていることも歌っておいてください。多くの方に歪みの研究を手がけていただけるように」
「なんだそりゃ。助けを求める英雄様なんてあんまり格好良くならない気がするけどなあ」
「実際、そういうものですよ。一人が成し遂げられることなど、せいぜい時間稼ぎでしかないのです。私は戦うことしか能がありませんから」

創作

#語彙トレ2026 01/17 - 蠱惑

「見ろ! この蠱惑的なラインを! 最高だと思わないか!?」
 新作の銃を受け取りに行ったユリウスを迎えたのは、ちょっと近寄り難いくらい興奮しているダミアンだった。
「この機能美は鍛え上げられた身体にも通じるものだ。つまり君も充分美しいぞ」
 さすがにこの変態トークに長く付き合うのは御免被りたい。手っ取り早く我に返ってもらう方法はないだろうか。少し考えたユリウスは、身を乗り出してゆっくりとダミアンの顔を覗き込み、よそ行きの笑顔を浮かべた。
「それ、僕も蠱惑的だってことですか?」
 ダミアンが一瞬で真顔になる。
「どこで覚えてきたんだそんなの」

創作