No.205, No.204, No.203, No.202, No.201, No.200, No.199[7件]
#語彙トレ2026 01/24 - 軋む
軋むような異音に、何事かとたまり場に向かうと、へっぴり腰でヴァイオリンのような楽器を構えたセルゲイと目が合った。背後でアシュトンが笑い転げている。
なんだこれ、という視線を向けてしまったユリウスに、セルゲイは赤面しながらヴァイオリンを身体から離す。
「た、たまには文化ってものに触れてみようと思って」
「無理すんな」
アシュトンはにやつきながらセルゲイからヴァイオリンを奪い取り、前触れもなく雑な仕草で軽快な音楽を奏で始める。
「弾けねえ奴は踊れ」
その後、言葉通り踊り出したくなる音楽を聞きつけた全員が部屋に集まってきてダンス大会が始まった。
軋むような異音に、何事かとたまり場に向かうと、へっぴり腰でヴァイオリンのような楽器を構えたセルゲイと目が合った。背後でアシュトンが笑い転げている。
なんだこれ、という視線を向けてしまったユリウスに、セルゲイは赤面しながらヴァイオリンを身体から離す。
「た、たまには文化ってものに触れてみようと思って」
「無理すんな」
アシュトンはにやつきながらセルゲイからヴァイオリンを奪い取り、前触れもなく雑な仕草で軽快な音楽を奏で始める。
「弾けねえ奴は踊れ」
その後、言葉通り踊り出したくなる音楽を聞きつけた全員が部屋に集まってきてダンス大会が始まった。
#語彙トレ2026 01/23 - 寂寥
「その絵、英雄だろ?」
路上で絵を売っているからには、話しかけられたら答えて仕事につなげるのが礼儀だ。
「ああ、これかい?」
地面に並べた幾枚もの絵の中から一枚を探し出して見せてやる。寂寥とした夜の荒野に跪き、石碑に祈りを捧げる青年の絵だ。人好きのする笑顔をふっと消した男は、その絵を静かに眺めた。
「俺も会ったよ、この人に」
「あんたも命を救われた口か」
頷いた男は、同じ構図で石碑を女神に描き換えてくれと言う。
「英雄に祝福を与える慈愛の女神にさ」
「引き受けよう」
それが帰って来なかった英雄への鎮魂になるのならと、絵描きは筆を手に取った。
「その絵、英雄だろ?」
路上で絵を売っているからには、話しかけられたら答えて仕事につなげるのが礼儀だ。
「ああ、これかい?」
地面に並べた幾枚もの絵の中から一枚を探し出して見せてやる。寂寥とした夜の荒野に跪き、石碑に祈りを捧げる青年の絵だ。人好きのする笑顔をふっと消した男は、その絵を静かに眺めた。
「俺も会ったよ、この人に」
「あんたも命を救われた口か」
頷いた男は、同じ構図で石碑を女神に描き換えてくれと言う。
「英雄に祝福を与える慈愛の女神にさ」
「引き受けよう」
それが帰って来なかった英雄への鎮魂になるのならと、絵描きは筆を手に取った。
#語彙トレ2026 01/22 - 諧謔
「では、お元気で」
別れの言葉はずいぶんとあっさりしたものだった。英雄として崇拝されるのにふさわしい実力を持った男は、しかしそんなことに大した意味はないとでも言うように微笑している。
「あんたなら歪みの大元を断つくらいのことはやってのけそうなんだがなあ」
「そうできたら良いのですが、残念ながら私にできることはせいぜい時間稼ぎくらいのものなのですよ」
諧謔に紛れて、もう一度同じ言葉が繰り返される。念を押されているのだろう。
「私に真実を探している時間はないので」
「そっか。じゃあ、俺も探しとくよ」
同じように冗談めかして、ゲイリーは誓った。
「では、お元気で」
別れの言葉はずいぶんとあっさりしたものだった。英雄として崇拝されるのにふさわしい実力を持った男は、しかしそんなことに大した意味はないとでも言うように微笑している。
「あんたなら歪みの大元を断つくらいのことはやってのけそうなんだがなあ」
「そうできたら良いのですが、残念ながら私にできることはせいぜい時間稼ぎくらいのものなのですよ」
諧謔に紛れて、もう一度同じ言葉が繰り返される。念を押されているのだろう。
「私に真実を探している時間はないので」
「そっか。じゃあ、俺も探しとくよ」
同じように冗談めかして、ゲイリーは誓った。
#語彙トレ2026 01/21 - 凝結
右腕の凝結した血液を容赦なく拭き取れば、その下から傷一つない肌が出てくる。
「これくらい治れば実用的か。しかし、実験例に事欠かないのはいいけど、君たちは怪我しすぎだよ」
治癒の弾丸の実験結果と共にもたらされた評価に、ユリウスは恐縮する。
「すみません」
「アシュトンに聞いたらすごい適当な答えが返ってきたから君に聞いておきたいんだけど、反動による疲労感はどの程度?」
「二時間全力で訓練した程度です」
「なるほど。体力の前借りをもうちょっと緩やかにしたいところだな」
カルテに書き込みながら、ダミアンはもう既に改良の方法を考え始めているようだった。
おまけ
アシュトン「えー、疲労感の程度? だりーなー煙草吸いてえ、くらい」
ダミアン「さっぱりわからん。だいたい君が煙草を吸いたいのはいつものことだろう」
アシュトン(肩をすくめる)
ダミアン「ところで毎回生傷が絶えないのはなんとかならないのか?」
アシュトン「活動に支障が出ねえ程度には抑えてるだろ。治癒の実験もできるし一石二鳥じゃねえか」
ダミアン「君たちはドMなのか?」
右腕の凝結した血液を容赦なく拭き取れば、その下から傷一つない肌が出てくる。
「これくらい治れば実用的か。しかし、実験例に事欠かないのはいいけど、君たちは怪我しすぎだよ」
治癒の弾丸の実験結果と共にもたらされた評価に、ユリウスは恐縮する。
「すみません」
「アシュトンに聞いたらすごい適当な答えが返ってきたから君に聞いておきたいんだけど、反動による疲労感はどの程度?」
「二時間全力で訓練した程度です」
「なるほど。体力の前借りをもうちょっと緩やかにしたいところだな」
カルテに書き込みながら、ダミアンはもう既に改良の方法を考え始めているようだった。
おまけ
アシュトン「えー、疲労感の程度? だりーなー煙草吸いてえ、くらい」
ダミアン「さっぱりわからん。だいたい君が煙草を吸いたいのはいつものことだろう」
アシュトン(肩をすくめる)
ダミアン「ところで毎回生傷が絶えないのはなんとかならないのか?」
アシュトン「活動に支障が出ねえ程度には抑えてるだろ。治癒の実験もできるし一石二鳥じゃねえか」
ダミアン「君たちはドMなのか?」
#語彙トレ2026 01/20 - 焦燥
眠るのは苦手だ。
夢にはよく、彼らが現れる。未来を共にするのだと信じていた頃の、厳しくも優しい記憶。ほんの少し時間を稼げばきっと解決策が見つかると、次こそはすべてを終わらせると、約束し合った。
時と共に少しずつ崩れていくそれが、どんな凄惨な戦いよりも苦い悪夢だ。
目覚めれば、誰もいない。あれからどれだけ時が経ったのか、未だ成し遂げられない、終わりの見えない使命。彼らの信じた未来を、疑いたくない。絶望したくないのに。
宵闇の中で、ひりつくような焦燥が身を焦がす。
眠るのは苦手だ。
夢にはよく、彼らが現れる。未来を共にするのだと信じていた頃の、厳しくも優しい記憶。ほんの少し時間を稼げばきっと解決策が見つかると、次こそはすべてを終わらせると、約束し合った。
時と共に少しずつ崩れていくそれが、どんな凄惨な戦いよりも苦い悪夢だ。
目覚めれば、誰もいない。あれからどれだけ時が経ったのか、未だ成し遂げられない、終わりの見えない使命。彼らの信じた未来を、疑いたくない。絶望したくないのに。
宵闇の中で、ひりつくような焦燥が身を焦がす。
#語彙トレ2026 01/19 - 脆弱
「理論的には成功率は既に百パーセントだ。そうでなければ、条件を満たした時点で、記憶を保持したまま、元の肉体と似た条件を備えた肉体に、むりやり魂を転生させる魔術を人間に付与することなど許されない。しかしまだ改良の余地はある。作戦決行の日までに、外部からの干渉に対する脆弱性を減らし、安定性を高めること。それが、僕の使命だ」
そう皆の前で決意を語ったダミアンも、後ろで熱心に頷いていたフレアも、最後まで全力を尽くしたことは疑いようもない。どんなに全力を尽くしたところで、どうにもならないことは、どうにもならない。ただ、それだけのことだ。
「理論的には成功率は既に百パーセントだ。そうでなければ、条件を満たした時点で、記憶を保持したまま、元の肉体と似た条件を備えた肉体に、むりやり魂を転生させる魔術を人間に付与することなど許されない。しかしまだ改良の余地はある。作戦決行の日までに、外部からの干渉に対する脆弱性を減らし、安定性を高めること。それが、僕の使命だ」
そう皆の前で決意を語ったダミアンも、後ろで熱心に頷いていたフレアも、最後まで全力を尽くしたことは疑いようもない。どんなに全力を尽くしたところで、どうにもならないことは、どうにもならない。ただ、それだけのことだ。

真夜中に目覚めたユリウスは、唐突な覚醒の理由を探して周囲を見回した。
静まりかえった宿舎の一人部屋は、いつもと何ら変わるところはない。気のせいかと思いつつ、ベッドから身を起こして部屋を出る。討伐隊のために設えられた宿舎兼訓練所は、対特異災害統合司令部の基地の片隅にあった。
宿舎を出て空を見上げる。オレンジ色の常夜灯にくまなく照らされた基地内から、その向こうの市街地に視線を投げたユリウスは、虹色の燦めきを見つけて目を細めた。
――歪みだ。
素早く判断を下すと、ユリウスはすぐに緊急出撃に備えて、宿舎へ取って返した。