No.195, No.194, No.193, No.192, No.191, No.190, No.1897件]

#語彙トレ2026 01/15 - 残滓

 なぜ本気のだるまさんが転んだが始まってしまったのか、その場に居合わせたユリウスにもまったく理解の及ばないところだった。ダリアとセルゲイが酔っ払って喧嘩を始めたところで、まだ酔っていないはずのフレアが「勝負を決めるならだるまさんが転んだだー!」と叫んだのがきっかけだった気がするが、そんなことで良い大人が本気の勝負をこの形式で始めることなどあるだろうか? 到底信じられない成り行きなのだが、なぜかダミアン以外の全員がやる気だ。
 驚愕の残滓を拭いきれずに呆然としながらも、ユリウスは手を抜かず律儀に「こ」のところで動きを止めた。

創作

#語彙トレ2026 01/14 - 隠微

「私には前世の記憶があるのですよ」
 にこやかにあり得ないことを言い出した男の表情に滲む隠微な感情が何なのか、吟遊詩人として人を見る目があるつもりのゲイリーにも読み取ることができなかった。
 得体の知れない男だが、命の恩人だ。突然現れた歪みを実体化させ、本当に人間なのか疑いたくなる強さで倒してしまった。襟元についている記章は祈導教会の正神官のものだし、歪みを倒した後の第一声は「夕食を一緒にいかがですか」だったので、少なくとも野盗の類ではないだろう。
「それ、マジ?」
「ええ、本当です」
 何かを諦めたような微笑に、信じてみてもいいかなと少し思った。

創作

#語彙トレ2026 01/13 - 乖離
 たまり場に入ったユリウスは、ソファの上でとろけたチーズのように眠りこけているフレアに気付いて足を止めた。テーブルの上には中身が一つだけ減った高級そうなボンボンの箱。リーアの私物のはずだが、うっかり食べてしまったのだろう。アルコールを一口でも飲むと五秒で寝る体質なのに何をしているのか。
 ダミアンと並んで天才的な魔術師として名を馳せているフレアだが、現実の姿は噂に聞く優秀さとは乖離している。
 食べている途中で力尽きたせいで右手に握られたまま床まで溶け落ちているチョコレートを見て、ユリウスはため息をついた。見つけてしまったからには、片付けるしかない。

創作

#語彙トレ2026 01/12 - 揺曳

「ったく、恐ろしいスピードで成長しやがって。綺麗に負けちまったじゃねえか」
 訓練室の床に大の字になってぼやくアシュトンの声が遠い。戦いの余韻が、まだ全身に揺曳している。
「すみません。予定が狂いましたよね」
「狂いましたねえ。このままギリギリ勝ち越しで試練の怪物に挑んでそっちとの戦いの中で越えてもらうつもりだったのによ。もう負けるイメージねえだろ」
「……はい」
 試練の怪物が、挑戦者の最も恐れるものの姿をして現れることはわかっていた。
「怪物で出演する機会を逃しちまったなあ」
「……すみません」
 勝ち筋が見えて冷静さを失った自分の落ち度だ。

創作

#語彙トレ2026 01/11 - 噤む

 荷物持ちさせられて、昼メシまで奢らされて、という言葉の割にまんざらでもなさそうなレグルスの愚痴を聞かされながら、それはデートなのでは、とユリウスは思ったが、賢明にも口を噤む。
「そうなんだよ」
 何も言っていないのに何かに同意したことになったらしい。
「あいつほんとに、昔っから俺のこと使いっ走りかなんかだと思ってて」
 原因は恐らく、別れ際に喧嘩をしたことだろう。怒声が訓練所の中庭から資料室の奥まで届いていた。
 長くなりそうだな、と、ユリウスは脳内で密かにこの後のスケジュールを組み直し始めた。

創作

#語彙トレ2026 01/10 - 境界線

「坊ちゃんの様子はどうだい、リーア」
 執務室にやって来たダリアは、応接用のソファに座り込むなり乱暴な口調で尋ねかけた。
「調査書には協調性を乱すほどではないが親しい友人は作らないって書いてあったけど」
「意外と仲良くやっていますよ。確かに自他の境界線ははっきりしていますし愛想もないですが、協調性はむしろある方かと」
 先を促すようなダリアの視線に、リーアは少し考え込む。
「共に死ぬとわかっている我々は、遠ざける必要がないのでしょうね」
 リーアの出した結論に、ダリアは大袈裟に肩をすくめてため息をついた。
「やれやれだね」

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#語彙トレ2026 01/09 - 浸食

「辛……」
 舌を侵食してくる強烈な刺激に、ユリウスは思わず顔をしかめた。
「え、全然辛くないだろ!?」
 唖然とするレグルスの皿には、あからさまに唐辛子の色で染まった真っ赤なカレーが入っている。
「味覚大丈夫ですか」
 思わず心配になって尋ねると、レグルスは不思議そうに目を瞬かせた。一辛なら辛くない、という彼の言葉は、どうやらこの壊れた味覚を根拠にして放たれたものだったようだ。
「今後は」
 理由を悟ったユリウスは、深く深くため息をつく。
「辛いのが好きな人間の辛くないという証言は信じないことにします」

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