No.211, No.210, No.209, No.208, No.207, No.206, No.2057件]

#語彙トレ2026 01/31 - 終焉

 祈導教会という組織は、歪みを封印する旅を支援させ、封印が有効な間に根本的な解決策を探させるには有用な組織だった。人びとの信仰心を集めるために過去の自分が英雄と呼ばれ神格化されているのには閉口したが、人や金や情報を集めるには宗教を利用するのが一番手っ取り早かったのだろう。
 有用であるからこそ、人びとが英雄に求めるイメージは保たなければならない。
 常に冷静で穏やかで迷わず、執着せず、傷つくことを恐れない英雄。
 それは指針であり、枷であり、盾だった。終焉のない旅路を繰り返しながら、置き去りにするとわかっていて人と深く関わることは、苦しかったから。

創作

#語彙トレ2026 01/30 - 炯炯

「根に持つタイプっつうか執念深いんだよな。負けそうになってもぜってーあきらめねえ。付き合うこっちの身にもなってほしい」
 ユリウスの炯炯とした眼差しの強さを思い出して、リーアは微笑した。アシュトンがあの真っ直ぐな強さに好感を持っていることは、よくわかっている。
「上手くやっているようで何よりです」
「リーアサン、俺の話聞いてた? 俺のプライドと体力がズタズタって話なんだけど?」
 まったく気持ちのこもっていない台詞を、リーアは鼻で笑い飛ばす。
「良かったじゃないですか。好敵手を得た『最強の傭兵』が、ますます手がつけられなくなったと兵舎でも評判ですよ」

創作

#語彙トレ2026 01/29 - 席捲

「俺はこの石鹸で世間を席捲する! なんてな!」
「お前さんは本当にギャグセンスがねえなあ」
 たまり場でユリウスを迎えたのは、すっかりできあがっているセルゲイとアシュトンだ。
「だったら見せてみろ、お前のギャグセンスとやらを!」
「専門外なんでね。ユリウス、任せた」
 逃げる間もなくアシュトンに責任を押しつけられたが、そろそろ泣き上戸が発動しそうなセルゲイに逆らうのも得策ではない。ユリウスはため息をついて、適当に切り抜けるネタを探す。
「個室に固執する……とか?」
「芸術的に面白くねえ。百点!」
 へらへら笑うアシュトンの評価は、やはり適当だった。

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#語彙トレ2026 01/28 - 羨望

「お前絶対いっぱい告白されたことあるだろ!? いいなああ! 俺もモテモテになりたい!」
 昼食中に唐突に向けられた羨望に、ユリウスは苦笑する。
「本気で告白してきたのは二人だけで、他はおそらく記念受験みたいなものです。だいたい僕の距離感で接していて本気になられても怖いだけですよ。実際二人は怖かったですしね」
 たった一人思い合える相手がいれば良いじゃないですか、と笑いかけると、レグルスは大慌てで「あいつはそんなんじゃないって!」と叫んだ。具体的なことは何一つ言っていないのに、すぐさまそんな反応が出てくる時点で、結論も出ているように思えるのだが。

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#語彙トレ2026 01/27 - 邂逅

「この世界と人類に守る価値はあると思うかい?」
 ダリアとの邂逅は、そんな一言から始まった。
 訓練所からの帰り、行き会った英雄から唐突に投げかけられた疑問に、ユリウスは彼女の真意を探る。
 対特異災害統合司令部の英雄。実体のない歪みに対抗する術はなく、歪みが生み出す化け物との戦いは果てがない。そんな中で戦い続け、人を救い続けてきたひとの言葉。
 信念を問われているのだと、そう思う。
「僕は世界や人類の価値を決められるような器ではありません。ですが、守りたいとは思っています」
 真摯に答えたユリウスに、ダリアは満足げな笑みを浮かべた。
「合格だ」

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#語彙トレ2026 01/26 - 輪郭

 ぶっつけ本番で力の使い方を模索する方が、試練の戦いよりよほど厳しいのだと実感した。
 雷竜の姿をした試練の怪物を倒した後、自分の中に流れ込み、一体化した『何か』。それがどう動くのか慎重に探りながらの初戦は、予想通りとはいえ散々だった。
 それでも歪みの具現化に成功した一回の感覚を、ユリウスは丁寧になぞる。
 歪みの核へ力を向け、道を作り、流れ込んで来る感情を具体的なイメージに落とし込み、その輪郭を歪みに投影するように返す。そうすることで実体を持たない歪みに形を与えれば、物理的な攻撃を通すことができるようになる。
 大丈夫だ。次はもっと上手くやれる。

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#語彙トレ2026 01/25 - 覚醒

 真夜中に目覚めたユリウスは、唐突な覚醒の理由を探して周囲を見回した。
 静まりかえった宿舎の一人部屋は、いつもと何ら変わるところはない。気のせいかと思いつつ、ベッドから身を起こして部屋を出る。討伐隊のために設えられた宿舎兼訓練所は、対特異災害統合司令部の基地の片隅にあった。
 宿舎を出て空を見上げる。オレンジ色の常夜灯にくまなく照らされた基地内から、その向こうの市街地に視線を投げたユリウスは、虹色の燦めきを見つけて目を細めた。
 ――歪みだ。
 素早く判断を下すと、ユリウスはすぐに緊急出撃に備えて、宿舎へ取って返した。

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