カテゴリ「創作」に属する投稿[58件](3ページ目)
#語彙トレ2026 01/20 - 焦燥
眠るのは苦手だ。
夢にはよく、彼らが現れる。未来を共にするのだと信じていた頃の、厳しくも優しい記憶。ほんの少し時間を稼げばきっと解決策が見つかると、次こそはすべてを終わらせると、約束し合った。
時と共に少しずつ崩れていくそれが、どんな凄惨な戦いよりも苦い悪夢だ。
目覚めれば、誰もいない。あれからどれだけ時が経ったのか、未だ成し遂げられない、終わりの見えない使命。彼らの信じた未来を、疑いたくない。絶望したくないのに。
宵闇の中で、ひりつくような焦燥が身を焦がす。
眠るのは苦手だ。
夢にはよく、彼らが現れる。未来を共にするのだと信じていた頃の、厳しくも優しい記憶。ほんの少し時間を稼げばきっと解決策が見つかると、次こそはすべてを終わらせると、約束し合った。
時と共に少しずつ崩れていくそれが、どんな凄惨な戦いよりも苦い悪夢だ。
目覚めれば、誰もいない。あれからどれだけ時が経ったのか、未だ成し遂げられない、終わりの見えない使命。彼らの信じた未来を、疑いたくない。絶望したくないのに。
宵闇の中で、ひりつくような焦燥が身を焦がす。
#語彙トレ2026 01/19 - 脆弱
「理論的には成功率は既に百パーセントだ。そうでなければ、条件を満たした時点で、記憶を保持したまま、元の肉体と似た条件を備えた肉体に、むりやり魂を転生させる魔術を人間に付与することなど許されない。しかしまだ改良の余地はある。作戦決行の日までに、外部からの干渉に対する脆弱性を減らし、安定性を高めること。それが、僕の使命だ」
そう皆の前で決意を語ったダミアンも、後ろで熱心に頷いていたフレアも、最後まで全力を尽くしたことは疑いようもない。どんなに全力を尽くしたところで、どうにもならないことは、どうにもならない。ただ、それだけのことだ。
「理論的には成功率は既に百パーセントだ。そうでなければ、条件を満たした時点で、記憶を保持したまま、元の肉体と似た条件を備えた肉体に、むりやり魂を転生させる魔術を人間に付与することなど許されない。しかしまだ改良の余地はある。作戦決行の日までに、外部からの干渉に対する脆弱性を減らし、安定性を高めること。それが、僕の使命だ」
そう皆の前で決意を語ったダミアンも、後ろで熱心に頷いていたフレアも、最後まで全力を尽くしたことは疑いようもない。どんなに全力を尽くしたところで、どうにもならないことは、どうにもならない。ただ、それだけのことだ。
#語彙トレ2026 01/18 - 伏流
帰ってきたらあんたが恥ずかしくなるくらいカッコイイ英雄の歌を捧げてやるよ、と言ったゲイリーに、男は微かに笑って肩をすくめた。その笑みの底に伏流していた感情は、今思えば「諦め」だったのかもしれない。
「ついでに歴代の英雄が歪みを根本的に解決する方法を探し続けていることも歌っておいてください。多くの方に歪みの研究を手がけていただけるように」
「なんだそりゃ。助けを求める英雄様なんてあんまり格好良くならない気がするけどなあ」
「実際、そういうものですよ。一人が成し遂げられることなど、せいぜい時間稼ぎでしかないのです。私は戦うことしか能がありませんから」
帰ってきたらあんたが恥ずかしくなるくらいカッコイイ英雄の歌を捧げてやるよ、と言ったゲイリーに、男は微かに笑って肩をすくめた。その笑みの底に伏流していた感情は、今思えば「諦め」だったのかもしれない。
「ついでに歴代の英雄が歪みを根本的に解決する方法を探し続けていることも歌っておいてください。多くの方に歪みの研究を手がけていただけるように」
「なんだそりゃ。助けを求める英雄様なんてあんまり格好良くならない気がするけどなあ」
「実際、そういうものですよ。一人が成し遂げられることなど、せいぜい時間稼ぎでしかないのです。私は戦うことしか能がありませんから」
#語彙トレ2026 01/17 - 蠱惑
「見ろ! この蠱惑的なラインを! 最高だと思わないか!?」
新作の銃を受け取りに行ったユリウスを迎えたのは、ちょっと近寄り難いくらい興奮しているダミアンだった。
「この機能美は鍛え上げられた身体にも通じるものだ。つまり君も充分美しいぞ」
さすがにこの変態トークに長く付き合うのは御免被りたい。手っ取り早く我に返ってもらう方法はないだろうか。少し考えたユリウスは、身を乗り出してゆっくりとダミアンの顔を覗き込み、よそ行きの笑顔を浮かべた。
「それ、僕も蠱惑的だってことですか?」
ダミアンが一瞬で真顔になる。
「どこで覚えてきたんだそんなの」
「見ろ! この蠱惑的なラインを! 最高だと思わないか!?」
新作の銃を受け取りに行ったユリウスを迎えたのは、ちょっと近寄り難いくらい興奮しているダミアンだった。
「この機能美は鍛え上げられた身体にも通じるものだ。つまり君も充分美しいぞ」
さすがにこの変態トークに長く付き合うのは御免被りたい。手っ取り早く我に返ってもらう方法はないだろうか。少し考えたユリウスは、身を乗り出してゆっくりとダミアンの顔を覗き込み、よそ行きの笑顔を浮かべた。
「それ、僕も蠱惑的だってことですか?」
ダミアンが一瞬で真顔になる。
「どこで覚えてきたんだそんなの」
#語彙トレ2026 01/16 - 氷解
「失敗した……っ」
たまり場の前を通りかかったところでアナベラの悲痛な叫びが聞こえて、ユリウスは思わず足を止めた。
「どうかしたんですか、アナベラさん」
たまり場のソファでがっくりとうなだれているアナベラに声をかけると、彼女は無言で両手を挙げた。両手にはまったく同じ装丁の本が一冊ずつ。
今日彼女は楽しみにしていた新刊本を買いに出かけた。そしてテーブルの上にはオンライン書店のロゴが入った段ボールが一つ。
疑問が氷解したユリウスは、「一冊買い取りましょうか」と提案してみる。
「あなた、気を遣いすぎよ……」
「いえ、興味はあるので」
「失敗した……っ」
たまり場の前を通りかかったところでアナベラの悲痛な叫びが聞こえて、ユリウスは思わず足を止めた。
「どうかしたんですか、アナベラさん」
たまり場のソファでがっくりとうなだれているアナベラに声をかけると、彼女は無言で両手を挙げた。両手にはまったく同じ装丁の本が一冊ずつ。
今日彼女は楽しみにしていた新刊本を買いに出かけた。そしてテーブルの上にはオンライン書店のロゴが入った段ボールが一つ。
疑問が氷解したユリウスは、「一冊買い取りましょうか」と提案してみる。
「あなた、気を遣いすぎよ……」
「いえ、興味はあるので」
#語彙トレ2026 01/15 - 残滓
なぜ本気のだるまさんが転んだが始まってしまったのか、その場に居合わせたユリウスにもまったく理解の及ばないところだった。ダリアとセルゲイが酔っ払って喧嘩を始めたところで、まだ酔っていないはずのフレアが「勝負を決めるならだるまさんが転んだだー!」と叫んだのがきっかけだった気がするが、そんなことで良い大人が本気の勝負をこの形式で始めることなどあるだろうか? 到底信じられない成り行きなのだが、なぜかダミアン以外の全員がやる気だ。
驚愕の残滓を拭いきれずに呆然としながらも、ユリウスは手を抜かず律儀に「こ」のところで動きを止めた。
なぜ本気のだるまさんが転んだが始まってしまったのか、その場に居合わせたユリウスにもまったく理解の及ばないところだった。ダリアとセルゲイが酔っ払って喧嘩を始めたところで、まだ酔っていないはずのフレアが「勝負を決めるならだるまさんが転んだだー!」と叫んだのがきっかけだった気がするが、そんなことで良い大人が本気の勝負をこの形式で始めることなどあるだろうか? 到底信じられない成り行きなのだが、なぜかダミアン以外の全員がやる気だ。
驚愕の残滓を拭いきれずに呆然としながらも、ユリウスは手を抜かず律儀に「こ」のところで動きを止めた。
#語彙トレ2026 01/14 - 隠微
「私には前世の記憶があるのですよ」
にこやかにあり得ないことを言い出した男の表情に滲む隠微な感情が何なのか、吟遊詩人として人を見る目があるつもりのゲイリーにも読み取ることができなかった。
得体の知れない男だが、命の恩人だ。突然現れた歪みを実体化させ、本当に人間なのか疑いたくなる強さで倒してしまった。襟元についている記章は祈導教会の正神官のものだし、歪みを倒した後の第一声は「夕食を一緒にいかがですか」だったので、少なくとも野盗の類ではないだろう。
「それ、マジ?」
「ええ、本当です」
何かを諦めたような微笑に、信じてみてもいいかなと少し思った。
「私には前世の記憶があるのですよ」
にこやかにあり得ないことを言い出した男の表情に滲む隠微な感情が何なのか、吟遊詩人として人を見る目があるつもりのゲイリーにも読み取ることができなかった。
得体の知れない男だが、命の恩人だ。突然現れた歪みを実体化させ、本当に人間なのか疑いたくなる強さで倒してしまった。襟元についている記章は祈導教会の正神官のものだし、歪みを倒した後の第一声は「夕食を一緒にいかがですか」だったので、少なくとも野盗の類ではないだろう。
「それ、マジ?」
「ええ、本当です」
何かを諦めたような微笑に、信じてみてもいいかなと少し思った。
#語彙トレ2026 01/13 - 乖離
たまり場に入ったユリウスは、ソファの上でとろけたチーズのように眠りこけているフレアに気付いて足を止めた。テーブルの上には中身が一つだけ減った高級そうなボンボンの箱。リーアの私物のはずだが、うっかり食べてしまったのだろう。アルコールを一口でも飲むと五秒で寝る体質なのに何をしているのか。
ダミアンと並んで天才的な魔術師として名を馳せているフレアだが、現実の姿は噂に聞く優秀さとは乖離している。
食べている途中で力尽きたせいで右手に握られたまま床まで溶け落ちているチョコレートを見て、ユリウスはため息をついた。見つけてしまったからには、片付けるしかない。
たまり場に入ったユリウスは、ソファの上でとろけたチーズのように眠りこけているフレアに気付いて足を止めた。テーブルの上には中身が一つだけ減った高級そうなボンボンの箱。リーアの私物のはずだが、うっかり食べてしまったのだろう。アルコールを一口でも飲むと五秒で寝る体質なのに何をしているのか。
ダミアンと並んで天才的な魔術師として名を馳せているフレアだが、現実の姿は噂に聞く優秀さとは乖離している。
食べている途中で力尽きたせいで右手に握られたまま床まで溶け落ちているチョコレートを見て、ユリウスはため息をついた。見つけてしまったからには、片付けるしかない。
#語彙トレ2026 01/12 - 揺曳
「ったく、恐ろしいスピードで成長しやがって。綺麗に負けちまったじゃねえか」
訓練室の床に大の字になってぼやくアシュトンの声が遠い。戦いの余韻が、まだ全身に揺曳している。
「すみません。予定が狂いましたよね」
「狂いましたねえ。このままギリギリ勝ち越しで試練の怪物に挑んでそっちとの戦いの中で越えてもらうつもりだったのによ。もう負けるイメージねえだろ」
「……はい」
試練の怪物が、挑戦者の最も恐れるものの姿をして現れることはわかっていた。
「怪物で出演する機会を逃しちまったなあ」
「……すみません」
勝ち筋が見えて冷静さを失った自分の落ち度だ。
「ったく、恐ろしいスピードで成長しやがって。綺麗に負けちまったじゃねえか」
訓練室の床に大の字になってぼやくアシュトンの声が遠い。戦いの余韻が、まだ全身に揺曳している。
「すみません。予定が狂いましたよね」
「狂いましたねえ。このままギリギリ勝ち越しで試練の怪物に挑んでそっちとの戦いの中で越えてもらうつもりだったのによ。もう負けるイメージねえだろ」
「……はい」
試練の怪物が、挑戦者の最も恐れるものの姿をして現れることはわかっていた。
「怪物で出演する機会を逃しちまったなあ」
「……すみません」
勝ち筋が見えて冷静さを失った自分の落ち度だ。
#語彙トレ2026 01/11 - 噤む
荷物持ちさせられて、昼メシまで奢らされて、という言葉の割にまんざらでもなさそうなレグルスの愚痴を聞かされながら、それはデートなのでは、とユリウスは思ったが、賢明にも口を噤む。
「そうなんだよ」
何も言っていないのに何かに同意したことになったらしい。
「あいつほんとに、昔っから俺のこと使いっ走りかなんかだと思ってて」
原因は恐らく、別れ際に喧嘩をしたことだろう。怒声が訓練所の中庭から資料室の奥まで届いていた。
長くなりそうだな、と、ユリウスは脳内で密かにこの後のスケジュールを組み直し始めた。
荷物持ちさせられて、昼メシまで奢らされて、という言葉の割にまんざらでもなさそうなレグルスの愚痴を聞かされながら、それはデートなのでは、とユリウスは思ったが、賢明にも口を噤む。
「そうなんだよ」
何も言っていないのに何かに同意したことになったらしい。
「あいつほんとに、昔っから俺のこと使いっ走りかなんかだと思ってて」
原因は恐らく、別れ際に喧嘩をしたことだろう。怒声が訓練所の中庭から資料室の奥まで届いていた。
長くなりそうだな、と、ユリウスは脳内で密かにこの後のスケジュールを組み直し始めた。
#語彙トレ2026 01/10 - 境界線
「坊ちゃんの様子はどうだい、リーア」
執務室にやって来たダリアは、応接用のソファに座り込むなり乱暴な口調で尋ねかけた。
「調査書には協調性を乱すほどではないが親しい友人は作らないって書いてあったけど」
「意外と仲良くやっていますよ。確かに自他の境界線ははっきりしていますし愛想もないですが、協調性はむしろある方かと」
先を促すようなダリアの視線に、リーアは少し考え込む。
「共に死ぬとわかっている我々は、遠ざける必要がないのでしょうね」
リーアの出した結論に、ダリアは大袈裟に肩をすくめてため息をついた。
「やれやれだね」
「坊ちゃんの様子はどうだい、リーア」
執務室にやって来たダリアは、応接用のソファに座り込むなり乱暴な口調で尋ねかけた。
「調査書には協調性を乱すほどではないが親しい友人は作らないって書いてあったけど」
「意外と仲良くやっていますよ。確かに自他の境界線ははっきりしていますし愛想もないですが、協調性はむしろある方かと」
先を促すようなダリアの視線に、リーアは少し考え込む。
「共に死ぬとわかっている我々は、遠ざける必要がないのでしょうね」
リーアの出した結論に、ダリアは大袈裟に肩をすくめてため息をついた。
「やれやれだね」
#語彙トレ2026 01/09 - 浸食
「辛……」
舌を侵食してくる強烈な刺激に、ユリウスは思わず顔をしかめた。
「え、全然辛くないだろ!?」
唖然とするレグルスの皿には、あからさまに唐辛子の色で染まった真っ赤なカレーが入っている。
「味覚大丈夫ですか」
思わず心配になって尋ねると、レグルスは不思議そうに目を瞬かせた。一辛なら辛くない、という彼の言葉は、どうやらこの壊れた味覚を根拠にして放たれたものだったようだ。
「今後は」
理由を悟ったユリウスは、深く深くため息をつく。
「辛いのが好きな人間の辛くないという証言は信じないことにします」
「辛……」
舌を侵食してくる強烈な刺激に、ユリウスは思わず顔をしかめた。
「え、全然辛くないだろ!?」
唖然とするレグルスの皿には、あからさまに唐辛子の色で染まった真っ赤なカレーが入っている。
「味覚大丈夫ですか」
思わず心配になって尋ねると、レグルスは不思議そうに目を瞬かせた。一辛なら辛くない、という彼の言葉は、どうやらこの壊れた味覚を根拠にして放たれたものだったようだ。
「今後は」
理由を悟ったユリウスは、深く深くため息をつく。
「辛いのが好きな人間の辛くないという証言は信じないことにします」
#語彙トレ2026 01/08 - 仄見える
なぜ夜を選ぶのかといえば、その方が他者の魔力を感知しやすいからだ。取り逃がしたくない。誰か一人だけでも、ほんの僅かでも、雲の向こうの月明かりのように微かな光であっても、その気配が仄見えることさえあれば。
そうしたら希望を失わずにいられるのに。一人ではない。そんなはずはない。
約束をした。誓い合った。歪みの元を絶つまで、共に戦い抜こうと。同じ記憶を持って、生まれ変わって、もう一度、何度でも、終わりが来るまで。
そのはずなのに。合流地点に決めたその場所は、何度訪れても、誰の気配も返してはくれない。
時だけが無情に過ぎていく。
なぜ夜を選ぶのかといえば、その方が他者の魔力を感知しやすいからだ。取り逃がしたくない。誰か一人だけでも、ほんの僅かでも、雲の向こうの月明かりのように微かな光であっても、その気配が仄見えることさえあれば。
そうしたら希望を失わずにいられるのに。一人ではない。そんなはずはない。
約束をした。誓い合った。歪みの元を絶つまで、共に戦い抜こうと。同じ記憶を持って、生まれ変わって、もう一度、何度でも、終わりが来るまで。
そのはずなのに。合流地点に決めたその場所は、何度訪れても、誰の気配も返してはくれない。
時だけが無情に過ぎていく。
#語彙トレ2026 01/07 - 綻び
「ユリウスー、そこ、ほつれてんぞ」
訓練室を出たところで、近くのベンチでストレッチをしていたレグルスに声をかけられた。視線を辿って見下ろした袖口に見えた綻びに、思わず舌打ちが出る。今日こそは無傷だと思ったのに、いつの間に掠ったのか。やはりアシュトンは油断ならない。
「舌打ちすんなよ美少年。お兄ちゃんが繕ってやろうか?」
「誰がお兄ちゃんですか。結構です。やり方だけ教えていただければ」
無愛想に返したのに、レグルスは嬉しそうに破顔する。
「さすがやる気の塊。お兄ちゃんに任せろり」
謎のギャグに反応するやる気は、もちろん持ち合わせていなかった。
「ユリウスー、そこ、ほつれてんぞ」
訓練室を出たところで、近くのベンチでストレッチをしていたレグルスに声をかけられた。視線を辿って見下ろした袖口に見えた綻びに、思わず舌打ちが出る。今日こそは無傷だと思ったのに、いつの間に掠ったのか。やはりアシュトンは油断ならない。
「舌打ちすんなよ美少年。お兄ちゃんが繕ってやろうか?」
「誰がお兄ちゃんですか。結構です。やり方だけ教えていただければ」
無愛想に返したのに、レグルスは嬉しそうに破顔する。
「さすがやる気の塊。お兄ちゃんに任せろり」
謎のギャグに反応するやる気は、もちろん持ち合わせていなかった。

右腕の凝結した血液を容赦なく拭き取れば、その下から傷一つない肌が出てくる。
「これくらい治れば実用的か。しかし、実験例に事欠かないのはいいけど、君たちは怪我しすぎだよ」
治癒の弾丸の実験結果と共にもたらされた評価に、ユリウスは恐縮する。
「すみません」
「アシュトンに聞いたらすごい適当な答えが返ってきたから君に聞いておきたいんだけど、反動による疲労感はどの程度?」
「二時間全力で訓練した程度です」
「なるほど。体力の前借りをもうちょっと緩やかにしたいところだな」
カルテに書き込みながら、ダミアンはもう既に改良の方法を考え始めているようだった。
おまけ
アシュトン「えー、疲労感の程度? だりーなー煙草吸いてえ、くらい」
ダミアン「さっぱりわからん。だいたい君が煙草を吸いたいのはいつものことだろう」
アシュトン(肩をすくめる)
ダミアン「ところで毎回生傷が絶えないのはなんとかならないのか?」
アシュトン「活動に支障が出ねえ程度には抑えてるだろ。治癒の実験もできるし一石二鳥じゃねえか」
ダミアン「君たちはドMなのか?」